南天実(ナンテンジツ)とは|江戸時代から愛される縁起の実

南天実(ナンテンジツ・南天の実)江戸時代から愛される縁起の実 ── その歴史と漢方の視点

冬の庭先で、葉の緑に映える鮮やかな赤い実。南天は「難を転ずる」の語呂から縁起物として愛され、正月飾りや赤飯の添え物として日本の暮らしに深く根づいてきました。一方で南天の実は、江戸時代後期から咳止めの民間薬として各地で用いられてきた歴史も持っています。縁起物としての文化と、民間薬としての歩み。ふたつの側面から、南天実の魅力をご紹介します。

南天実は厚生労働省の定める「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)」に該当します。本ページは南天実の文化的・歴史的な背景を紹介するものであり、特定の疾病に対する効能効果を示すものではありません。体調に不安のある方は、医師または薬剤師にご相談ください。
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南天実とは ── 植物と文化の歴史

南天(ナンテン)はメギ科の植物で、学名を Nandina domestica Thunb. といいます。中国原産で、秋から冬にかけて赤い果実を実らせます。生薬として用いられるのは、この成熟した果実を乾燥させたもので、南天実(なんてんじつ)と呼ばれます。

日本における南天の歴史は古く、室町時代にはすでに庭木として植えられていた記録があります。「南天」の音が「難転」── すなわち「難を転ずる」に通じることから、厄除け・縁起物として武家・公家から庶民まで広く親しまれるようになりました。進物の赤飯に南天の葉を添える風習も生まれ、正月飾りに赤い実の枝が用いられるのも、この縁起担ぎに由来するものです。

なお、南天の葉を赤飯に添える風習には、単なる縁起担ぎ以上の意味があったと考えられています。南天の葉からはごく微量のシアン化水素が発生し、これが食品の傷みを抑える働きを持つことが知られており、先人の知恵が自然と衛生面にも結びついていた一例といえます。

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民間薬としての歩み ── 日本独自の発見

南天の実が咳止めの民間薬として使われ始めたのは、江戸時代後期のことです。小山田与清の随筆『松屋筆記』には鎮咳薬としての記載が見られ、以後、乾燥した果実を煎じたり黒焼きにして服用する方法が各地に広まりました。

興味深いのは、この鎮咳利用が中国から伝わった知識ではない可能性が高いという点です。養命酒製造の調査によれば、南天は中国原産の植物でありながら、果実を咳止めに用いる知恵は日本で独自に生まれたものとされています。中国の本草書では南天竹子(果実)の記載はあるものの、漢方の正式な処方には一切配合されておらず、民間薬として単独で使用されるのが特徴です。これは他の生薬にはあまり見られない、南天実ならではの経緯といえます。

この民間の知恵は現代にも受け継がれています。常盤薬品工業の「南天のど飴」は、南天実由来の有効成分を配合した第二類医薬品として販売されており、武蔵野大学との共同研究で鎮咳効果が確認されています。江戸時代の民間薬が、現代の製薬技術と出会って製品化された好例です。

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漢方における南天実の位置づけ

以下は漢方理論における分類です。食品としての効能効果を示すものではありません。

ごく簡単に言えば、漢方の世界では南天実は「肺に関わる咳の領域で用いられてきた民間薬」です。以下にもう少し詳しい分類を記します。

四気(性) 平(有小毒)
五味 酸・甘(苦渋)
帰経 肺・肝
分類 止咳平喘薬(敛肺止咳類)

南天実は漢方では止咳平喘薬(しがいへいぜんやく)に分類され、なかでも敛肺止咳(れんぱいしがい)── 肺を収斂して咳を止める範疇に位置づけられる生薬です。また、一部の古典文献では清肝明目(せいかんめいもく)の範疇に触れた記載も見られます。

ただし前述のとおり、南天実は漢方の正式な処方(方剤)には含まれません。民間薬・経験方としての使用が中心であり、この点は杏仁(キョウニン)や枇杷葉(ビワヨウ)など、処方に広く配合される他の止咳生薬とは異なる特徴です。

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民間での伝統的な使い方

以下は民間で伝統的に行われてきた使い方の記録です。現在の使用を推奨するものではありません。南天実は「専ら医薬品」に該当するため、食品としての利用は認められていません。

かつての民間療法では、乾燥させた南天の実を水で煎じて服用する方法が広く行われていました。文献に記録されている方法としては、乾燥果実を水に入れて弱火で煮出すというものです。また、果実を黒焼き(焼存性)にして粉末にし、服用するという方法も各地に伝わっています。

中国の民間処方集『福建中草薬』には、乾燥果実を水で煎じ氷砂糖を加えて服用する方法が記載されています。苦渋い味を和らげるための工夫が、当時から行われていたことがうかがえます。

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南天実のよくある質問

南天実は食品(お茶)として飲めますか?

南天実は厚生労働省の定める「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)」に該当するため、食品やお茶としての販売・使用は認められていません。民間では古くから煎じて用いられてきた歴史がありますが、現在の法規制上、食品としての流通はできない素材です。

赤南天と白南天に違いはありますか?

生薬市場では赤実種(普通種)と白実種(シロミナンテン)が区別されています。白実種は古くから珍重される傾向がありますが、実際には赤白で成分に大きな差はないとされています。なお、赤い果実を薬品で脱色し「白南天」として流通させる偽和品の存在が指摘されており、信頼できる販売元から購入することが大切です。

「南天のど飴」と南天実は関係がありますか?

はい、関係があります。常盤薬品工業の「南天のど飴」は、南天実由来の有効成分を配合した第二類医薬品です。南天実に含まれる成分を活用し、現代の製剤技術で仕上げたもので、江戸時代から続く南天実の民間利用が現代の医薬品として受け継がれた例といえます。

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南天の実(なんてんのみ)── 乾燥した赤い果実

商品情報

品名 南天の実(ナンテンジツ)
内容量 100g
形態 乾燥果実
原産地 国産
価格 1,100円(税込)

古来の文化と自然の美しさを宿した南天の実を、ぜひお手に取ってみてください。

全国一律送料でお届けします

妊娠中の方、授乳中の方は、ご使用前に医師または薬剤師にご相談ください。

南天実には微量の毒性成分(アルカロイド)が含まれます。大量の摂取はお控えください。

漢方薬局 下田康生堂

千葉県富里市日吉台4-9-11

TEL:0476-22-4160

監修:薬剤師・国際中医専門員 下田健一郎

参考文献

  1. 日本家庭薬協会「南天のど飴|家庭薬ロングセラー物語」
  2. 養命酒製造「咳止め薬やのど飴の原料に。冬を彩る縁起物、ナンテン」
  3. ウチダ和漢薬「南天実(ナンテン)」生薬の玉手箱
  4. 中医世家「南天竹子」──《中薬大辞典》《中華本草》収録

最終確認:2026年3月7日