漢方の世界を探検|体質を整え、体を育てる医学
📚 目次
📖 第1章
1. はじめに|病名がなくても、つらいことがある
朝、目覚めても、疲れが抜けきっていない。
なんとなく気分がすぐれず、やる気も出ない。
体は冷え、胃は重たく、月経のたびに心が不安定になる。
そんな経験、ありませんか?
健康診断では「異常なし」。
病院に行っても「問題ないでしょう」と言われてしまう。
でも、自分の体は確かに、声にならないSOSを発している——そんな感覚がある。
漢方では、このような状態を「未病(みびょう)」と呼びます。
未病とは、病気に至る一歩手前、けれど健康とは言えない、あいまいなグレーゾーンのこと。
東洋医学では、未病の段階で体のバランスを整え、病気になる前に食い止めることを重視してきました。
症状が出るのを待つのではなく、体の小さな乱れに耳を澄まし、整えていく。
それが、漢方の基本的な考え方です。
「なんとなく違和感がある」
「ちょっと無理している気がする」
そんな小さなサインに、漢方はそっと寄り添います。
あなたが感じている違和感は、決して気のせいではありません。
体は、ちゃんとあなたにメッセージを送っているのです。
では、そんな体にどう寄り添っていくか。
次の章で、漢方と西洋医学のものの見方の違いを、もう少し詳しく見ていきましょう。
🔎【補足】
漢方における未病とは、病気になる前に体の乱れを整える大切な段階と考えられています。
💬【ミニまとめ】
体の違和感に早く気づき、優しく整えていくことが、未来の健康への第一歩です。
📖 第2章
2. 西洋医学と漢方医学の違い|どちらが正しい、ではなく“どう使い分けるか”
「漢方って、なんとなく民間療法みたいなものだと思っていた」
そんな声を耳にすることは、少なくありません。
けれど実は、漢方もれっきとした医学の一つ。
現代の医療の中でも、正式に位置づけられている治療法です。
ただ、漢方と西洋医学とでは、体の見方が大きく異なります。
西洋医学は、検査や数値を通して、体の「異常」を見つけるのが得意です。
そして、その異常を直接治すために、薬や手術といった明確な手段を講じます。
たとえば、風邪なら解熱剤や咳止め、不眠なら睡眠導入剤といった具合に、
症状そのものをピンポイントで抑えることに力を発揮します。
一方、漢方は少し違います。
目に見える症状だけに注目するのではなく、
「なぜその症状が起きているのか」を、体全体のバランスから読み取ろうとします。
たとえば、冷えやすくなった、胃が重たい、気分が塞ぐ。
そんな変化を、ただの「一時的な不調」と片付けず、
気(エネルギー)・血(栄養)・水(体液)の巡りや、体を温める力の低下といった背景から捉えます。
そして、体質の偏り=「証(しょう)」に合わせて、全体を整えることを目指します。
西洋医学が「症状を止める医学」なら、
漢方医学は「症状が出ない体を育てる医学」と言えるかもしれません。
どちらが正しくて、どちらが間違っているわけではありません。
急いで症状を抑えたいときには西洋医学を、
体の土台から整えたいときには漢方医学を。
目的に応じて、両方をうまく使い分けること。
それが、私たち現代人にとって最も賢い選択なのだと思います。
🔎【補足】
漢方医学は、症状の原因を「体全体のバランス」から捉える医学体系です。
💬【ミニまとめ】
西洋医学と漢方医学、それぞれの強みを知り、体の状態に合わせて選ぶ力を身につけましょう。
📖 第3章
3. 「気・血・水」が整うと、体はすこやかにめぐり出す
漢方の世界では、人の体は「流れ」と「バランス」でできていると考えます。
その流れを支えているのが、「気・血・水(き・けつ・すい)」と呼ばれる三つの要素です。
気とは、体を動かすエネルギーのこと。
これが不足すると、疲れやすくなったり、気力が湧かなくなったりします。
血は、全身に栄養と潤いを届けるもの。
血が足りなくなると、顔色が悪くなったり、生理が乱れたり、肌や髪の乾燥が目立つようになります。
そして水は、体内の水分やリンパの流れを司る存在。
水が滞ると、むくみやめまい、痰などのトラブルを引き起こします。
この三つが、それぞれ十分に満たされ、滞りなく巡っている状態が、漢方でいう「健康」です。
反対に、どれか一つでも不足したり、巡りが滞ったりすれば、
体はたちまちバランスを崩し、さまざまな不調が顔を出してきます。
だからこそ、漢方では症状だけを見るのではなく、
「気・血・水」の巡りやバランスをしっかりと読み取り、体全体を整える処方を考えていくのです。
🔎【補足】
気・血・水とは、漢方における健康を支える三大要素であり、それぞれが互いにバランスを保つことで健やかな体が維持されます。
💬【ミニまとめ】
「気・血・水」の流れを整えることが、体調不良の根本改善への第一歩です。
📖 第4章
4. 同じ症状でも処方が違う?体質を見て選ぶ“証(しょう)”という考え方
「冷えがつらいから、何か漢方薬を飲みたい」
そう相談されたとき、漢方ではまず「どんな冷えか?」を丁寧に見極めます。
一口に冷えといっても、原因はさまざまです。
体を温める力そのものが弱っている人もいれば、
血の巡りが滞っているせいで冷えている人もいます。
あるいは、体のエネルギーが足りずに冷えを感じている人もいます。
たとえば、
体を温める力が不足しているなら「陽虚(ようきょ)」、
血の巡りが悪いなら「瘀血(おけつ)」、
エネルギーそのものが不足しているなら「気虚(ききょ)」。
漢方ではこうした体の内側の状態を「証(しょう)」と呼びます。
症状だけを見るのではなく、
その人の体質=証をきちんと読み取り、
それに合わせた薬を選んでいく。
それが、漢方の基本的な診断の流れです。
つまり、同じ「冷え」という言葉であっても、
原因によって選ぶ処方はまったく変わってくるのです。
🔎【補足】
「証(しょう)」とは、漢方における診断単位であり、体質やバランス状態を指します。
💬【ミニまとめ】
同じ症状でも、体質に応じたオーダーメイドな対応こそが、漢方の真髄です。
📖 第5章
5. なぜ「同じ漢方薬」が、いろいろな症状に使われるの?
漢方薬の商品説明を読むと、
「この薬は、生理前のイライラにも、胃の不快感にも、更年期の不安にも使われます」
そんなふうに書かれていることがあります。
「え、そんなに万能なの?」
そう思うかもしれません。
でも実は、そこには漢方独自の深い理由があります。
漢方薬は、症状に合わせて選ぶのではなく、
その人の体質、つまり「証(しょう)」に合わせて選ばれます。
たとえば、「加味逍遙散(かみしょうようさん)」という処方。
これは、「気の巡りが滞り、血も不足している」という証に対して使われます。
気が滞ると、イライラや不安感が出やすくなり、
血が不足すると、体が冷えたり、疲れやすくなったりします。
だから、同じ「加味逍遙散」が、
生理前の情緒不安定にも、
ストレスによる胃の不快感にも、
更年期の不安やのぼせにも、
共通して使われるのです。
症状は違っても、
体の根っこにある乱れが同じなら、整え方も同じ。
これを漢方では「異病同治(いびょうどうち)」と呼びます。
🔎【補足】
異病同治とは、異なる症状でも根本の体質が同じなら同じ漢方薬で整えるという考え方です。
💬【ミニまとめ】
症状に惑わされず、体の本質にアプローチする。それが漢方の柔軟さです。
📖 第6章
6. なぜ今、現代人にこそ漢方が合うのか?
忙しく働き、家事や育児にも追われながら、
自分のことはいつも後回し。
そんなふうに、毎日を駆け抜けている人は少なくありません。
一見元気に見えても、
心の奥底には、なんとなく抜けない疲れや、
説明できない不調を抱えている。
特に、20代から40代の女性に多く見られるのが、こんな状態です。
朝起きても、体がだるい。
月経前になると、イライラしたり、落ち込んだり。
足先が冷え、むくみやすくなり、食欲も不安定。
夜はなかなか眠れず、浅い眠りに何度も目が覚める。
病院で検査をしても「異常なし」。
けれど、確かに、体も心もつらい。
この「なんとなく不調」を、漢方では「未病(みびょう)」と捉えます。
未病とは、まだ病気ではないけれど、健康とも言えない微妙なバランスの崩れ。
ストレス社会、冷暖房完備の室内生活、スマホに頼る夜更かし。
気の巡りが滞り、血や水のバランスが乱れやすい今の時代。
だからこそ、体の内側からバランスを整える漢方が、
現代の私たちに、いちばんフィットしているのです。
🔎【補足】
未病ケアは、現代人の体質改善における重要なアプローチ方法です。
💬【ミニまとめ】
小さな違和感を放置せず、体を整える習慣こそが、未来の健やかさを育てます。
📖 第7章
7. 実感でわかる、西洋薬と漢方薬のちがい
風邪をひいたとき、
高熱や咳に苦しんでいるなら、
きっと真っ先に手に取りたくなるのは西洋薬でしょう。
解熱剤で熱を下げ、
咳止めで呼吸を楽にする。
症状をピタッと抑える力に、西洋薬はとても優れています。
けれど、症状を押さえることができても、
体そのものが元気を取り戻していなければ、
すぐにまたぶり返したり、回復までに時間がかかったりすることもあります。
そんなとき、漢方の出番です。
たとえば、風邪のひきはじめに使われる葛根湯(かっこんとう)は、
体をじんわり温め、発汗を促し、
自らの力で寒さ(外邪)を体外へ追い出す手助けをします。
無理に熱を下げるのではなく、
体の内側から治る力を引き出す。
西洋薬は「症状をピンポイントで止める薬」。
漢方薬は「体の力を助け、自然な回復を促す薬」。
どちらが正しい、ではありません。
状態に合わせて、うまく使い分けること。
それが、現代人にとっていちばん賢い選択肢です。
📖 第8章
8. 漢方薬は安全?副作用はないの?
「漢方薬は天然だから、副作用はない」
──そんなふうに思われがちですが、実は違います。
確かに、漢方薬は自然界の素材から作られています。
けれど、自然のものでも使い方を誤ればリスクはゼロではありません。
たとえば、体質に合わない漢方薬を長期間飲み続ければ、
むくみ、胃の不快感、皮膚トラブルなどが出ることもあります。
また、生薬の一つである甘草(かんぞう)は、
大量摂取で血圧上昇や低カリウム血症を引き起こすことが知られています。
だからこそ、漢方では
「体質に合ったものを、適切な量・期間で使う」
──この原則を何より大切にしています。
🔎【補足】
漢方は「安全」ではなく、「適切な管理によって安全にできる」医学です。
💬【ミニまとめ】
自己判断せず、プロのアドバイスのもと、自分に合う処方を選ぶ。これが漢方との上手な付き合い方です。
📖 第9章
9. 漢方薬は植物だけじゃない?自然の恵みが処方を支えている
漢方薬に使われる素材は、
草や木だけに限りません。
たとえば、
牡蛎(ぼれい)や亀板(きばん)、鹿角(ろっかく)といった動物性生薬は、
体を温めたり、生命力を補ったりするために使われます。
また、
竜骨(りゅうこつ)や石膏(せっこう)といった鉱物性生薬は、
精神を安定させたり、炎症を鎮めたりする力を持っています。
漢方は、自然界に存在するあらゆる命の力を借りながら、
バランスよく体を整えていく医学。
ただの成分の寄せ集めではなく、
自然そのものの「調和と巡り」を生かした処方なのです。
📖 第10章
10. 最後に:漢方は、治すだけでなく、“整え、育てる”医学
ここまで読み進めてきたあなたは、
きっともう感じ始めているでしょう。
漢方は単に症状を抑える医学ではありません。
あなたの中に眠る「治る力」を呼び覚まし、
体を整え、未来に向かって育てていく医学です。
少しずつ、少しずつ。
巡りを整え、バランスを取り戻す中で、
ふと気づいたとき、「そういえば楽になった」と思えるようになる。
焦らず、無理せず、
自分の体に寄り添いながら進むこの道のりは、
きっと未来のあなたへの、かけがえのない贈り物になるでしょう。
🌸「治す」だけじゃない、「育てる」漢方へ。
これからのあなたの健康に、そっと寄り添います。
監修者メッセージ

からだの不調には、必ずその人なりの理由があります。
漢方では、表に現れる症状だけでなく、体質や生活リズムの中にある小さなサインを大切にします。
もし今、からだの声に少しでも違和感を感じているなら、どうか一人で抱え込まないでください。
あなた自身が本来持つ力を、もう一度引き出すお手伝いができれば幸いです。
体質やライフスタイルに合わせた無理のない方法で、一緒に整えていきましょう。
まずはお気軽にご相談ください。
監修者プロフィール
🎓 日本大学薬学部卒業/上海中医薬大学中医学科日本校卒業/薬剤師/国際中医専門員。
📚 「漢方薬局 下田康生堂」代表。20年以上にわたり、漢方相談を通じて地域医療に貢献。
🌸 特に不妊症・婦人科疾患の体質改善サポートに多くの実績を持つ。
🗣️ 企業向けセミナーや日本大学薬学部公開講座での講師などを通じ、漢方の魅力を広く伝えている。
下田 健一郎
漢方薬局 下田康生堂
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